ナイトハイキングについて

ナイトハイキング(ナイトハイク)とは夜の暗い登山道をヘッドライトを照らしながら歩く夜間登山のことです。その目的は綺麗な夜景を見るため、ご来光を見るため、アルプスの縦走などの長い山行工程で日の出前から出発するなどさまざまです。

暗い登山道を歩くことは足元さえ気をつけておけば、それほど難しいことではありません。しかし、ナイトハイキングを行っている際にコースアウトしてしまった、転倒や滑落して負傷してしまった、体調不良や天候悪化で歩行困難になってしまったなど何かトラブルが起こってしまえば山岳事故となります。そのようなことを避けるために基本的な知識と技術をしっかり身につけておかなければなりません。

ナイトハイキングのスタイル

ナイトハイキングのスタイルは大きくわけて三つあります。

① 明るいうちに登って暗くなってから下る
② 夜の暗い時に登って、暗い時に下る
③ 深夜の暗い時に登って、夜が明けてから下る

夕景や西向きの美しいトワイライト夜景を望む場合は①、ご来光や東向きの美しいトワイライト夜景を望む場合は③、 他は②になります。遭難は下山時に多いという点からして一番安全と思われるのは③で、これに関しては多くの登山者がご来光を見るためにしていることでもあります。 ①は最も夜景観賞を目的とした登山者がしているスタイルです。この場合、明るいうちに登るので、 その間に危険なところがないか確認しておく必要があります。そして、最も危険なのは②を行う場合です。これは昼間に一度登っておくなど下調べが必要になってきますが、あまり推奨するスタイルではありません。

昼間の登山経験を積んでおくことが基本条件

当然のことですが、ナイトハイキングは昼の登山に慣れておくのが基本条件となります。

もちろんナイトハイキングは夜間の暗い時間に行うため昼間の登山より危険度は増します。登山経験のない初心者同士のナイトハイキングや夜間登山に慣れていない初心者が単独でナイトハイキングを行うのは非常に危険です。まだナイトハイキングの経験がない、もしくはまだ慣れていない初心者の場合は経験豊富な人と一緒に行くようにしましょう。
また、代表者のホームページには厳冬期の積雪時にナイトハイキングしたものも紹介されています。雪景色と夜景というものに魅了されてしまいますが、積雪時のナイトハイキングを行うには雪山登山の知識や技術も必要になり、当然ながら危険度も増します。雪山で遭難すると命の危険にさらされますので、安易に行わないようにして下さい。

動物との遭遇

ナイトハイキングを行っている際、鹿やイノシシなどの動物と遭遇することが多々あります。

ナイトハイキングに慣れないうちは動物の足音や鳥の「キャー」という鳴き声に驚いてパニックになる人もいます。足音や鳴き声の正体がわかれば恐怖心はなくなりますが、やはり突然だと驚いてしまいます。もし、動物と遭遇した場合はその場に立ち止まって立ち去るのを待ってから行動するようにします。大抵の動物はヘッドライトの明かりに怯えて逃げていきます。また、熊除けにラジオや音楽などを鳴らしながら歩くようにして、あらかじめ人間の存在を知らせておくのも一つの手段です。

ナイトハイキングの技術や知識

ナイトハイキングで最も危険なのは道迷いだと思っている人が多いのではないでしょうか。たしかに明るい昼間は普通に見えている道標や分岐などを暗い夜間であれば見落とすことがありますが、その点に関しては意識して歩いていると意外にコースアウトすることはあまりありません。ところが、ナイトハイキングの際に最も危険でよくありがちなのは足元の躓きやすい所を見落として転倒してしまうことです。ただ転んで無事であればいいのですが、打ち所が悪くて骨折や捻挫などで動けなくなったり、そこが岩場や急斜面の近くであれば滑落してしまう可能性があります。

暗い登山道の歩き方

ナイトハイキングにおいて最も危険だとされる転倒を防ぐために、足元を照らしながら一歩ずつ確実に道を踏み込んでいくように歩いていきます。そして、コースアウトを防ぐために時々立ち止まって周囲を確認するようにします。

常に現在、どの辺りを歩いているのか意識しておくことが重要になります。そこが昼間の明るい登山道での歩き方と大きく違う点です。もちろんこのような歩き方をするため、通常より時間がかかってしまいます。

また、下山時に梯子や鎖場など危険な場所では、まず後者が上から下に向かってヘッドライトを照らして先頭者の視界を広げて、次に先頭者が下から上に向かってヘッドライトを照らして後者の視界を広げるという技術を使います。
  

ヘッドライトについて

夜の山で明るいのは夜景が見える山頂や展望地などの付近だけです。樹林帯に入り込むと真っ暗で何も見えません。当然のことですがナイトハイキングはヘッドライトの明かりが命綱なのです。明りがないと登山道を歩くことは不可能ですので、必ず予備のヘッドライトと電池は備えておくようにしましょう。

ときどきペンライトや懐中電灯、スマートフォンの明かりなどを使用して歩いて人を見かけますが、両手を空けるためヘッドライトを使用するようにしましょう。特に下山時は転びやすかったり、急な斜面での鎖場や岩場など手で身を支えなければならない場所があります。
次にヘッドライトの選び方ですが、明るさは90~100ルーメンもあればいけますが、それでも少し暗く感じるので200ルーメン以上を推奨します。明るければそれに越したことはありませんが、あまりにも明るすぎると眩しくて同行者が負担に感じることがあります。

ナイトハイキングの装備

通常の登山道具に加えて予備のヘッドライトと電池は当然ですが、夜の山(稜線地帯などの吹き曝しになっている場所など)はとても冷えることがありますので夏といっても防寒着は必ず携行しておくようにしましょう。以下の装備を参考にするといいでしょう。

・予備のヘッドライトと電池
・手袋や軍手、ニット帽、ネックウォーマー
・レインジャケット、ダウンジャケットなどの防寒着
・トレッキングポール(※ 必須ではありませんが蜘蛛の巣除けにも役立ちます)
・GPS(スマートフォンのアプリ等)
・ツェルトなどのビバーク用品(※ 必須ではないが携行しておけばより安全)

ナイトハイキングのルート(コース)について

ナイトハイキングを計画する際に最も重要なのがルート選びですが、一度は昼間に登ったことのあるルートを選ぶのが安全です。
ナイトハイキングでは最短ルートでのピストンが基本となります。しかし、昼間に一度登ったことがあったり、最短であればどのようなルートでのピストンでも良いというわけではありません。たとえば、登りの工程で岩場が多かったりすると下山は危険を伴いますので、その場合は比較的安全な別のルートで下るようにします。そしてナイトハイキングのルート選びにおいて二つの点が重要になります。
一つ目は下山時はできる限り尾根ルートであることです。もちろん最短の尾根ルートをピストンするのが一番安全ですが、最短でなくても尾根ルートを選ぶようにしましょう。

二つ目は沢筋(谷)ルートはできる限り避けることです。特に下山時において暗くなってからの沢ルートは迷いやすく遭難しやすくなります。
やむを得ず沢筋ルートで下ったことはありますが、正規ルートはここで沢を渡るのか?高巻きするのか?と迷いながら何度もコースアウトしたり、思わず沢に落ちてしまいました。ルートファインディングの難易度はかなりあがります。たとえよく知ってる沢筋ルートでGPSがあったとしても夜間はコースアウトしてしまうことがよくあります。それに沢筋ルートは滑落しそうな細い道や岩場など危険な場所が多いのです。

結局、沢筋が最短ルートであったとしてもルートファインディングの難易度が高くなってしまい下山時間も大幅にかかってしまうのです。

ナイトハイキングのルート選びの基本は最短ルートでのピストンになりますが、それが沢筋など危険を伴うような場合は遠回りになったとしても、尾根ルートやきっちり整備された登山道や舗装道などの比較的に安全なルートを選ぶようにしましょう。

登る山のマナーを守る

ナイトハイキングのルート選びの際にその山のマナーやルールをあらかじめ調べておくことが重要になります。たとえば夜間登山が禁止されている山であればナイトハイキングはできません。また、いくら最短ルートといっても違法駐車や地元住民などの迷惑行為、私有地への無断立ち入りなどは絶対にしてはいけません。そのようなルールやマナーを守らない行為をしている山行記録も見かけることがありますが、そういった人が多くなると夜間登山の禁止や入山禁止になってしまうことにもなりかねません。

コースタイムと気温の変化

登山では標高100mを登るのに標準で15分~20分ほどかかると言われています。単純計算をすると標高300mの山を登るのに約1時間を要する計算になりますが、それはひたすら登りが続いている場合に限ります。
たとえば、標高300mの山であっても登ったり下ったりする(アップダウンがある)ルートの場合はコースタイムが変わってきます。そこで重要になってくるのが累積標高差になります。標高300mの山でも標高100m登って標高20mを下り再び標高150mを登って標高50mの下りがある、そして最後に標高120mの登りで山頂に到達する場合だと累積標高差が370mになってしまうのでコースタイムは下りの時間および休憩時間を入れたとして約1時間30分程度を要する計算になります。


稜線上の道を見てみると奥の一番高いピークまでは登ったり下ったりとアップダウンがある

その他、標高2000mの高山でも登り始めるスタート地点の標高が1400mだった場合は標高差が600mで単純計算だと約2時間程度で登れることになります。
下山時のコースタイムについても標高100mを下るのに登り時間の約半分を基本とすれば単純計算では約10分程度になりますが、夜間の場合だと足元を見ながら比較的安全に下れる箇所を探りながらの下りになるので、その分時間を要してしまいます。つまり山の標高だけでコースタイムを予想した山行計画を立ててはいけないということです。
また、累積標高差が1200mの山の場合だと単純に計算すると約4時間程度で登れることになりますが、長い山行工程では何度か休憩を入れないと体力が続きませんので、1時間に15分程度の休憩時間も含めた場合の山行計画を立ててみると約5時間以上かかるということになります。
最後に標高100m上がるごとに約0.6度の気温が下がるといわれています。つまり標高1000mだと気温が6度下がる計算になります。夏にナイトハイキングを行う場合、地上の気温が28度であっても標高1000m地点になると(28-6=)22度になります。そして、そこが吹き曝しの場所になっていて風の影響を受けてしまうとさらに体感温度は下がってしまいます。

ナイトハイキング(ナイトハイク)の限界を知っておく

ナイトハイキング(ナイトハイク)、つまり夜間登山の計画を立てる際に山行コースタイムの限界を知っておく必要があります。体力的なことはもちろんですが、ひたすら暗い登山道を歩くわけですから精神的な限界値も知っておく必要があります。どれだけ夜間登山に慣れていて体力に自信があったとしても、累積標高差がある長い山行工程だと、明るいうちに登頂できたとしても下山時のことを考えると「無事に下れるだろうか」、「熊やイノシシに襲われないだろうか」などとという不安になってしまいます。そのような不安を抱いてしまうと、どうしても「早く下ろう」という焦りから山岳事故へと繋がります。不安を抱いてしまう山行計画でのナイトハイキングは行うべきではないのです。
これまでの経験で大凡の話になりますが、下山がナイトハイキングになってしまう場合は累積標高差600m、下山2時間前後が限界なのです。その限界を超えてしまうと、ヘッドライトの明かりだけを頼りに歩いているので目が疲れてきたり、精神面でも疲れてきます。もちろんそれは人によって異なりますので、慣れていない人だと40分~1時間が限界という人もいるでしょう。ただし、ご来光目的で明るくなっていく時間帯を目指して登っていくナイトハイキングであれば別です。

ナイトハイキングでの読図

ナイトハイキングを行うには読図ができることが必須条件となります。しかし、真っ暗な樹林帯の中でヘッドライトの明かりだけを頼りに周囲の地形を確認することはかなり難しいでしょう。そのため地図とコンパスがあったとしても現在地を特定するのは困難になります。そこで役立つのがGPSになります。
最近ではスマートフォンのGPSアプリが格安で手に入るので登山者に人気があります。さらにスマートフォンの予備充電器も携行しておくとより安心です。GPSで使える地図はいくつかありますが、詳細な地形が読める25000分の1の国土地理院地図を利用するのが最もいいでしょう。

※ たとえGPSがあったとしても読図ができないと何の役にも立ちませんので、しっかり読図ができるようにしておきましょう

だからといって、全てをGPSに頼るのもよくありません。スマートフォンの故障等でGPSが使えなくなってしまった場合も想定しておかなければいけません。ナイトハイキングの計画の際に、どのような道をどこを経由して登っていくのかといったルートチェックを事前に行っておいてルート全体図を頭に入れておくことが重要になります。もちろんナイトハイキングだけではなく昼間の登山であっても事前にルートチェックしておく必要があります。いずれにしても事前にルート全体図を頭に入れておくことに慣れてくると、たとえGPSや地図で確認しなくても大凡の現在地を想像できるようになります。

読図の基本

ここでは詳細な地形が読める25000分の1の国土地理院地図を使って基本的な読図方法を簡単に説明します。
さらに詳しく知りたい方は別サイトや書籍などで学んでください。

25000分の1の地図は標高10mごとに細い等高線と標高50mごとに太い等高線が引かれています。等高線とは同じ高さを結んだ線のことです。標高10mごとに等高線が引かれているわけですから、その間隔が広くなっている場所は斜面がなだらかで、その間隔が狭くなっている場所は急斜面ということになります。

山は基本的に尾根と谷(沢)でできています。上記の地図を見てみると尾根は周辺より高い位置に張り出しています。尾根にいる場合、周囲より高い場所にいて周りの地形は低くなっています。

尾根道(周囲の一番高い位置での道が続いている)

それに比べて谷は尾根に囲まれた低い場所になっていて沢筋で水が流れていることがあります。上記の地図で見てみると谷は周囲の低い位置に等高線が張り出しています。もちろん谷にいる場合、周囲より低い場所にいて周りの地形は高くなっています。谷ルートは登り詰めると尾根上のピークとピークの間の標高が低くなった場所(コル部)に続いて、そこから尾根ルートになっていることがよくあります。

谷 / 沢筋(周囲が尾根に挟まれた一番低い位置での道が続いている)

しかし、尾根でもなく谷でもない道を歩く場合があります。そのような場合、山の斜面をほぼ水平に移動するトラバースルートであることが多いです。ピークに登らずにその中腹を歩く巻道ということです。

上記の地図の緑線を見てみると、ピークに登らず尾根の中腹をほぼ水平に移動しているルートがひたすら続いています。つまり尾根やピークを巻いきながら徐々に高度を上げていくトラバースルートということです。
このトラバースルートはつづら折れの道になっていることも多く、急斜面である場所があまりないという特徴があります。

トラバースルート(山の斜面・尾根の中腹を横切っている道が続いている)

※ 磁北線について
コンパスは地図上の真北を正しく指していません。その理由は地球の北極点がズレているからです。そのズレを磁北偏差といい約7.3度ほどズレています。北に行くほど磁北偏差は大きくなり南に行くほど小さくなります。いくら地図とコンパスがあっても磁北線に合わせないと位置がズレてしまうことになります。登山で地図とコンパスを使う場合は必ず地図の上部から分度器で7.3度ほど右へズレた斜め線を何本か引いておきます。そしてコンパスはこの線を引いた磁北線を真北に合わせて読図するようにしましょう。コンパスの詳しい使い方については別サイトや書籍などで学んでください。

荒れた登山道を歩く場合

台風などで倒木したり、あまり人気がなく整備されていない登山道を歩くこともあるでしょう。こういった荒れた登山道では踏み跡がないため迷いやすくコースアウトしてしまうことがあります。

荒れている登山道を歩く場合は木を跨いだり倒木を少し巻いたりするのですが、できるだけ頭に入れているルートからコースアウトしないように意識しておきます。たとえ木にテープが巻かれていたり、わずかな踏み跡があったとしても、それは単なる林業道である可能性があります。その道がどの方向に向かっているのかをきっちり確認します。特に木に巻かれたテープに関しては、正しい方向を示していることもありますが、安易に信用しないようにしましょう。そして、あまりにも登山道が荒れている場合は途中で断念して引き返すことも重要です。

道に迷ってしまった場合

必ずしもきっちり整備された登山道に展望地があるわけではありません。何度も言いますが事前にルートの全体図を頭に入れておくことが必須条件です。もし踏み跡がなくなり道に迷ってしまった場合の対処法は二つあります。

一つ目は通ってきたルートを戻っていって道を再確認することです。特に下山時は早く戻りたいという焦りから何とか先に進もうとしてしまいがちですが山で無理をすると遭難する可能性があること心がけておきましょう。もはや通ってきたルートすら見失って完全に現在地がわからなくなっってしまった場合は無理に動き回らず、付近の安全な場所を探して避難します。

二つ目は踏み跡を見失ってコースアウトしてしまったが見えている尾根やピークに目的地や展望地があるといった場合、無理矢理になりますが尾根へ登ってしまうのも一つの手段です。ただし、これを行えるのは目的地が近くに見えている尾根上にあると確認できている場合に限ります。山で道に迷った際、無理矢理にでも尾根へ登ってしまうという一つの対処法を利用した手段です。しかし、近くに尾根が見えない場所であれば、残念ですが断念して引き返しましょう。

雪山ナイトハイキングについて

関西地方で有名な金剛山などは厳冬期の積雪時にナイトハイキングを行うことがあります。
雪山ナイトハイキングを行うにはナイトハイキングの技術・知識に加えて雪山登山の知識・技術とそれなりの経験が必要になります。

ラッセルが必要になるような豪雪地帯、12爪アイゼンやピッケル、スノーシューを用いた本格的な雪山登山技術を要する山では行いません。雪山ナイトハイキングを行うのは、積雪量が少ない安全性のある整備された登山道などのルートで、6爪アイゼン程度の装備で行けるような山に限ります。たとえ積雪量が少なくても通常のナイトハイキングより危険性は増します。特に厳冬期は積雪のない場所であっても登山道が完全に凍結していることもあります。また、雪質の状態にもよりますが、積雪量が5cm程度であっても夜間は完全に凍ってしまっていることもよくあります。
雪山ナイトハイキングを行う際は少ない積雪量であっても必ずアイゼンを携行しておくことが絶対条件です。また、下山時によくありがちなのは、もう積雪していない場所だと油断して安易にアイゼンを外したりすると、凍結している部分に足を置いてしまい滑り転んでしまうことがあります。これは積雪時だけではありませんが山岳事故は油断した時によく起きているのです。どのような山行であっても最後まで油断しないことを常に心がけておきましょう。